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その高いクオリティに心ときめかせた会員誌 「EXTENSION」。
懐かしのバックナンバーに再会。

引き込まれたくて止まない世界観に、大人ごころがまた、満たされる。

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ハイドパークに夕暮れが近付いていた。公園に入ると、スピーカーズコーナーでひとりのピエロが数少ない観客を集めて帽子を回していた。キャサリンは、その傍らをとおって公園にはいった。恋人と別れたばかりだった。死ぬ決意をしていた。公園内の他に出ると岸辺に淡い黄色の水仙が咲いていた。人通りは途絶えていた。木立を抜けて風が拭き、水仙の黄色の花が揺れた。池にさざなみが立ち、水面に映っていた対岸の林が揺れて崩れた。

「ああ、私死ぬんだわ」キャサリンは小さく囁いた。「本当ですか?」突然、背後から声がした。驚いて振り返ると、先程のピエロが立っていた。着替えてはいたが、メイクはそのままだった。大きく描いた赤い唇が笑っていた。「本当よ。でも、あなたには関係ないわ」「私も時には死にたくなることがある。本気でそう思ったときのために、いつもこれをひとつ持っているんです。今日が、そんな気分なんです。」ピエロは懐から大事そうに小さな紙切れをひとつ取り出した。「ひとつしかないんですが、もし必要ならあげましょうか?」そういうと、ピエロは白い粉の入った小さな紙の包みをキャサリンに差し出した。思わずキャサリンは後退りした。

「どうしたんです?いらないんですか?」 「だ、だってそれを頂くと、あなたの分がなくなるわ」「じゃ、こうしましょう」 ピエロは微笑みを浮かべたまま人気の途絶えた道の傍らに腰を下ろした。そして手に持っていた古びたトランクを開け、半分の飲みかけの赤ワインのボトルとグラスを二つ取り出した。トランクの蓋の上にグラスを置くと赤いワインを満たした。次に紙包みを開き、中の白い粉を片方のグラスにいれた。そして、クルクルクルと二つのグラスを目にも留まらぬ速さで回した。どちらのグラスに薬を入れたのか、誰にも分からなくなってきた。

「さ、飲みましょう」ピエロにそういわれて、キャサリンはまた後退りした。「そうしたんです?これは楽な薬ですよ。あっという間だ。さ、どちらにしますか?」キャサリンはもう一歩後退りした。「じゃあ、僕が先に選びますよ」ピエロは片方のグラスを手に取るとグッと飲み干した。途端にピエロは喉をかきむしって苦しみ始め、数秒で動かなくなった。キャサリンは悲鳴を上げ、公園内のポリス・ボックスに走った。「ひ、人が死にました!」警官とともにその場に戻るまではほんの数分もかからなかった。「どこですか?」警官が尋ねた。「ここよ!」キャサリンはふたりで座っていた芝生を指差した。しかし・・・・・・そこには誰もいなかった。警官の顔には騙された腹立ちが浮かんだ。「お嬢さん、こんな冗談はもうナシですよ」警官は厳しい目でそういうと立ち去った。ひとり残されたキャサリンは芝生に座り込んだ。と、その芝生に埋もれるように置かれたワイングラスがひとつ見えた。グラスの下には何か書かれた一枚の紙・・・・。それにはこう書かれていた。

「FORGIVE AND FORGET!」(許してあげなさい、そしてわすれなさい)

キャサリンは暫くそれを見詰め、やがて小さな声で「THANKS」(ありがとう)と呟いた。そして残されたグラスにそっとキスすると、そのグラスを岸辺に咲く黄水仙の茂みの間に沈めた。「望みなき愛」−それが、黄水仙の言葉だった。


 

2008.08.07 11:21:35


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