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その高いクオリティに心ときめかせた会員誌 「EXTENSION」。
懐かしのバックナンバーに再会。

引き込まれたくて止まない世界観に、大人ごころがまた、満たされる。

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 2008年7月 

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白夜を追う道

マン島はイギリス国内の独立国。切手が違い、お札が違う。同じなのは言葉と女王陛下だけ。桟橋(ピア)で会った小学校3年のマイクがいった。「イングランド?行きたくない。アイム・プラウド・オブ・マン」

そんな独立独歩を経済的に支えるのが、夏のレースを柱とした観光収入。そう。彼等はホスピタリティのプロフェッショナルだったんだ。首都ダグラス空港でレンタカーのローバーを借り、早速島内のTT(タイム・トライアル)コースを走る。ゆっくり走っても1時間程の距離。ヒルクライムのような坂道。谷間のブラインドコーナー。何ヶ所もあるヘアピン。丘のストレート。あらゆるシチュエーションが備わった公道コース。途中から農家のオジサンが前に割り込む。同じローバー。オジサン、ちょいとごめんよ、オレ達、先を急いでるんだ。シフトダウンしてグッとアクセルを踏み込む。ここは一気に・・・・・エッ!?踏んでも踏んでも追い付かない。ムムッ、コンナハズハナイ!しかし、ストレートもコーナーもオジサンはエンジン音も高らかにブッチギリだ。そして間もなく、オジサンのローバーは丘の彼方に消えた。

さすがマン島。ただのオジサンでさえタダモノではない。大それたことを考えた我が身を反省。オジサンが消えた丘に最敬礼してSHELLのスタンドに。車を降りるとタイヤの焦げた匂いが鼻を突いた。


 

2008.07.31 13:42:26

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夏の浮島 ISLE OF MAN(アイル オブ マン)

トラッドとコンサバが少々重くなって、僕達はナイジェル・マンセルが住むマン島へ渡った。リバプールでマンスク・エア機に乗り込んだ途端に、僕達の周囲では笑顔が渦巻き始める。会う人会う人みんな精一杯の笑顔で僕達を迎えてくれる。島中が住民の笑顔で宝石のように輝く。

"ホスピタリティ"。日本語にはピッタリとフィットする言葉がない。敢えて訳せば、他人に対する暖かい心遣い。幸せが空の上からみんなに平等に降ってきてでもいるかのように、みんなが僕達を幸せにしてくれる。

海賊が開いたというこの島。海賊達がこの島に隠し残した財宝が何か。僕達には分かった。


 

2008.07.28 10:43:51

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田園に浮かぶ聖地

南で車に魅せられた男たちの夢のタイムカプセルを見た翌日、今度は北へ。かつて飛行機がテイクオフしていた飛行場跡地。今はF1マシンがテイクオフするシルバーストーン・サーキット。1950年、F1の歴史を飾る第一回GPはここで開かれた。モータースポーツ発祥の地イギリスの至高の聖地である。

88年7月10日F1イギリスGP決勝。激しい雨の中を飛び出したポールポジションのベルガー。これを予選3位のセナが追う。スピン、クラッシュを恐れる他のドライバー達を尻目にふたりのテールツーノーズのドッグファイト。14週目、セナとベルガーは周回遅れで16位を走るプロストの背後に迫る。プロストを抜くリスクに躇(ためら)うベルガー。その一瞬の隙を突いて、セナの危険な賭け。セナはウッドコートシケインでプロストを一気に抜き去る。セナのシーズン4勝目。初の年間チャンピオンへと弾みを付けた。一方のプロストはセナとベルガーに抜かれた後「これ以上リスクは冒せない」といって24週目にリタイア。レース後、プロストは母国フランスのマスコミからも「臆病者」の烙印を押され、悔し涙を流した。セナとプロストの違いを際立たせる印象的な行動だった。

数々の逸話を生んできたシルバーストーンは、羊と牛がノンビリと草を食む典型的な中部イングランドの農村地帯のド真中にある。牧歌的なこの村は、イギリスGP期間中だけ突如としてイギリス最大の聖地に変身し、終わると再び羊と牛の天下となる。

この日もシルバーストーンは雨だった。無人のサーキット。第一コーナーの手前に濃いブラックマークが残っていた。濡れた路面に耳を押し当てると地の底から10気筒(ホンダ)と12気筒(フェラーリ)のエンジン音が聞こえてきた。


 

2008.07.17 10:02:20

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車に魅せられた放蕩(ほうとう)貴族

ネクタイを締めてゆっくりとトーストとスクランブルエッグのイングリッシュ・ブレックファストをしたため、イギリス貴族の希代のカーコレクションを求めて南に向かう。距離にして100キロたらず、ビューリーの英国立自動車博物館(ブリティッシュ・モーター・ミュージアム)、歴史の海に溺れそうになってロンドンを脱出したのだったが、しかし、辿り着いたビューリーも、やはり深い歴史の海だった。
車の絵が描かれた小さなサインボードの立つ森の小道を入っていくと、手入れの行き届いた森と庭園。その緑に溶け込む控えめな建物。それが、モータースポーツ濫觴の地イギリス最大のカーコレクションの本拠地だった。その余りに謙虚な佇まいに、しばし頭を垂れる。が、気を取り直して扉をあける。と、たちまち僕達は年齢を忘れた。

国民宿舎のような外見を裏切って、モーターホール・オブ・フェイム始まる館内は、車に取りつかれた男たちの夢の標本箱だった。1899デイムラー、1913フィアット、1909ロールスロイス・シルバー・ゴースト、1939ラゴンダV12、1924ブガッティT35、そして1964ブルーバードなどソルトレイクでのスピード記録達成車の数々・・・・。車を創ることに、走ることに、命を燃やした男たちの夢が、タイムカプセルの中に眠っていた。

館内にBGMなどなく、年齢をすっかり忘れた老若男女の話し声だけが、彼等に囁きかけていた。このコレクションは、昔ビューリーを納めていた貴族モンタギュー卿の究極の車三昧の結果。そのご本尊の居城が今も同じ庭園内にある。そのリビングのソファーで、熱い紅茶をすすりビスケットを齧った後、すっかり暗くなった田舎道をロンドンに向かった。


 

2008.07.10 13:56:23

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黄金の影を踏む市(マーケット)

ビクトリア朝大英帝国(ユニオンジャック)が最も光り輝いた十九世紀末、「イギリスの平和」が世界を支配していた。イギリスは「世界の銀行」であり、「世界の工場」だった。アフリカ、インド、アメリカ、アジア。世界中の植民地から、ありとあらゆる人種と物資がイギリス、ロンドンへと運ばれた。

過剰な反映から生まれたのは、世紀末の退廃(デカダン)とマーケットだ。人々の欲望と底無しの胃袋を満たすために、地球上の富という富がテムズを遡って、ロンドンに蓄積された。インドの香辛料(スパイス)ピラミッドのかけら。象牙。ジパングの黄金、チャイナの絹。南洋の極彩色の鸚鵡(おうむ)や奇怪な蜥蜴(とかげ)・・・・。ヨーロッパ随一といわれたロンドンのマーケットは、イギリスの輝かしい繁栄と栄光の象徴だった。

既に今、その全てはテムズの藻屑となって消えた。しかし、マーケットは匂いと姿を変えて今も営々と続いている。ポートペローでティン・トイを買い、少し淋しくなったチャーチストリートで古い外套を買う。活気に溢れるカムデンロックでは、アメリカからわたってきたアール・ヌーボーのラジオを見付けた。おなかが空いて食べるフィッシュ・アンド・チップス。たっぷりビネガー(酢)をかけた揚げたてのドーバーのたら(コッド)は、いつも変わらず真っ白い。

かつてそこに積まれていたであろう黄金の影を踏んで、僕達は今、ロールスロイスのラジエターキャップ「スピリッツ・オブ・エクスタシー」を探す。


 

2008.07.03 10:48:49

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