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自他共に認める、世界経済の中心国アメリカ。その中でも、ニューヨークマンハッタン島に位置する「ウォールストリート」は、全世界のマーケット情報や人材が集まる金融の中心だ。そんな地において、第一線で活躍するアナリストたちが、日本からは見えにくいアメリカの実像、そしてアメリカから見た世界の微動・激動をレポートする。
今月のアナリスト
ブラドリー・ルービン (Bradley Rubin)
1969年生まれ。フランスを拠点とする世界屈指の金融グループ「BNPパリパ ニューヨーク」の自動車産業スペシャリスト。ハートフォード大学卒業後、サフォーク大学で財政学の修士号を取得。専門は、自動車産業とハイテク産業。主な業務は、分析レポートの執筆。朝6時半には出社して、11時間は働くという。2人の娘、アランナ(11)とエミリー(8)を愛するパパでもある。
はじめまして。BNPパリパのブラドリー・ルービンといいます。私は、10年間、アナリストとして、主に自動車産業とハイテク産業を専門分野としてきました。今回は、アメリカの自動車産業の概況について、わかりやすくお話ししたいと思います。
この業界は、大きなニュースになることも多く、株価の変動も激しいので、投資家にとっては重要なマーケットといえます。
現在、アメリカの自動車産業では、トヨタなどの日本のメーカーの業績が好調です。さらにいえば、韓国のヒュンダイ自動車も元気がいい。そんな彼らが飛躍した背景には、アメリカ南部への投資が挙げられます。トヨタはケンタッキー州とミシシッピ州(2010年完成予定)、日産はテネシー州とミシシッピ州、ホンダやヒュンダイはアラバマ州に主力の製造工場を持ちました。
彼らが、アメリカ南部に進出する主な理由は2つ。ひとつは、人件費が米国内でも比較的安いから。もうひとつは、従業員が労働組合に加入していない(南部には、そういう制度・慣習が定着していない)からです。
一方、GMやフォードが製造拠点を置く北部は、労働組合の活動が活発です。この労働組合の存在が、アメリカ、そして世界の自動車マーケットの今後を占う上で重要になっています。
労働組合を舞台にしたニュースが、最近起こりました。9月24日から26日までの間、7万3000人ものGMの労働組合員が、年金や保険の受給問題をめぐり、ストライキを起したのです。GMの労働者のストは、1970年以来のこと。それゆえ全米で大ニュースになりました。
GMやフォードは、自動車産業では歴史のある会社(GMは1908年創業、フォードは1903年創業)ですが、両社では伝統的に労働組合が強く、彼らの交渉力によって、従業員の賃金や保険などの待遇面は、トヨタやホンダよりはるかに高くなっています。ところが、このことが両社の競争力を低下させていますし、利益確保の足をひっぱっていることは事実です。
全米自動車労働組合(UAW)が、対GMのストライキを開始すると、全米のメディアは連日それを報じた(画像は、「ニューヨークタイムズ」インターネット版より)。
構造改善するにも、労働組合の反発に遭う
日本や韓国の車に市場を席巻されて以降、彼らが唯一利益を上げていた車は、中・大型のSUV(スポーツ・ユーティリティ・ビークル)車でした。しかし近年、ガソリンの値上げとともに、燃費が悪いこれらの車は敬遠され、売り上げも急激に落ちました。その結果、ここ数年間でGMやフォードは、数十億ドル(数千億円)も損失を計上しています。
そういった状況を打破しようと、両社は、中国やインド、南アメリカへの投資を拡大しています。インド市場においては、現在はインフラを整備している段階なので、あと5年間は売り上げ増は見込みにくいですが、それ以降は大幅に伸びると私は見ています。
ただし、懸念は労働組合の反発です。彼らは、米国内で車を生産して、その車を輸出することを要求してきます。利益確保のための低コスト化を進める中で、こうした米国内の問題をどうさばくかが、両社の課題です。
加えて、両社は、業績悪化に伴った工場閉鎖などのリストラを積極的に進めたいのですが、必ず組合の強い反対に遭って難航します。ひとつの工場を閉鎖するまでに、数年間かかることもあります。
こうした点が、さらに両社の車の競争力を削いでいるといっていいでしょう。たとえば、両社の車の残存価格(売却時の見積もり額)は、トヨタ車やホンダ車よりも低い。不必要な製造ラインや工場を閉鎖するために時間がかかり、結果として在庫を多く抱えてしまうため、残存価格もすぐに下がるからです。
よって、多くのアメリカの消費者は、外国メーカーの車を買います。信頼できて、良い品質で、残存価格も高い。今後も、アジアの自動車メーカーの業績が伸び続けることは間違いなさそうです。実際には、アメリカ車の品質も10年前に比べるとはるかに良くなってきていて、トヨタ、ホンダなどとの差を大きく詰めています。私自身、他人にGMの車の購入を勧めることはできます。短期間で乗り換えようという気がなければですが。
インド、中国を投資対象にしているのは、まだ一部だけ
GMでは、ストライキが終わり、組合との交渉の結果、年収15万ドル(およそ1600万円)クラスの多くの従業員が、早期退職奨励を受け入れて退職することになりました。彼らと入れ替わりに、7〜8万ドルクラスの従業員を雇用するわけです。
現在、GMやフォードの従業員の1時間あたりの平均賃金や諸手当は、トヨタより約30ドルも高い。これを2010年までという短期間に約10ドルまで下げようとしています。それでもまだトヨタの利益率のほうが、今後、何年にもわたり、両社を上回る状態が続くでしょう。
このような自動車産業の状況を見てもわかる通り、海外市場に関する高い知識を持っている全米の投資家は、すでに国内ではなく、インドや中国などの新興経済国を投資の対象としています。ところが、それは投資に関する教養や経験が豊富な一部の投資家だけで、その他多くの投資家は、いまだそれほど興味を示していません。逆にいえば、そうした投資家層がインドや中国へ目を向ければ、それら地域の経済発達は、さらに加速するわけです。日本の投資家には、そのあたりを注目しておいてほしいですね。
蛇足ですが、アメリカの投資家たちにとって、経済成長が止まってしまった日本への興味は、正直なところ低くなっています。ただ、ボストン出身の私は、日本への関心が高まっています。レッドソックスに、すばらしい投手(松坂大輔投手、岡島秀樹投手)を送り込んでくれた国ですからね(笑)。
日本にはまだ行ったことがないのですが、すしや天ぷらなどは大好きで、よく日本食レストランに行きます。来年の開幕戦は東京で開催するということなので、チケットが手に入れば足を運びたいですが、プラチナチケットになりそうなので無理かもしれませんね。
(構成/神林毅彦)
おまけコラム ウォールストリートのアナリスト事情(1)
カリスマ・アナリストが読む「サブプライムローン問題の今後」
マヨ氏のインタビューが掲載された、11月13日付けの「フォーチュン誌」インターネット版。今後も、さまざまな問題が顕在化するというが……。
1999年、クレディ・スイス・ファースト・ボストンに勤務していたウォールストリート・アナリストのマイケル・マヨ氏は、地方銀行の株を手放すよう投資家に強く勧めた。その発言は金融界の反発を呼び、彼は会社をクビになった。しかし、その後、地方銀行は、1945年以来の最悪の業績悪化を迎えた。結果、彼の影響力は、絶大なものになっている。
現在、マヨ氏はドイツ銀行に所属するアナリストとして活躍中である。2007年10月、サブプライムローン問題に絡む多額の損失を計上した全米で総資産ナンバーワンの銀行シティグループを、彼が「売り」に指定すると、その株価は急降下した。さらに悪化し続ける同問題によってシティグループとメリルリンチのトップが退き、両社では数千人が解雇された。
マヨ氏は11月上旬、サブプライムローン問題で全世界の銀行が計上する損失は、3000〜4000億ドル(33〜44兆円)にまで上ると予測、この問題の影響は、あと2〜3年続くとしている。さらに自動車ローンに関する問題や不動産・建設業界にも問題がくすぶっていると「フォーチュン」誌のインタビューに答えている。
2007/12/17UP
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