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2008.06.17
自他共に認める、世界経済の中心国アメリカ。その中でも、ニューヨークマンハッタン島に位置する「ウォールストリート」は、全世界のマーケット情報や人材が集まる金融の中心だ。そんな地において、第一線で活躍するアナリストたちが、日本からは見えにくいアメリカの実像、そしてアメリカから見た世界の微動・激動をレポートする。
今月のアナリスト
ブラドリー・ルービン (Bradley Rubin)
1969年生まれ。ニューヨーク在住の自動車産業スペシャリスト。現在は、フリーのアナリストとして活躍中。ハートフォード大学卒業後、サフォーク大学で財政学の修士号を取得。専門は、自動車産業とハイテク産業。2人の娘、アランナ(11)とエミリー(8)を愛するパパでもある。
こんにちは。ブラドリー・ルービンです。お元気でしたか。今月は5カ月ぶりに私が担当します。今回は止まらない原油の高騰が、アメリカの企業や消費者に及ぼす影響と、人々の環境問題に対する意識の変化に関してお話ししたいと思います。
先日、アメリカ国内におけるガソリン価格が、原油高騰が始まる5年前の約3倍に当たる、平均1ガロン4ドル(およそ1リットル114円)となったというニュースが流れました。このことは、日本の方もご存じだと思います。
日本やヨーロッパと異なり、通勤通学の手段に車を使う人が多いアメリカにおいて、ガソリンの高騰は、特に中流階級や低所得者層の人々に深刻な痛手を負わせています。時給7ドル(約750円)でファストフードに勤務している人などは、車で職場まで通う金銭的余裕がなくなりました。いまや1週間のガソリン代が平均60ドルから70ドルもかかってしまうという調査結果も出ており、大多数の市民生活に打撃を与えているのです。
「1ガロン当たり平均4ドルにまで高騰した石油価格は、公共交通機関のない過疎地域の人々を特に苦境に陥れている」と報じるニューヨークタイムス(6月9日付)。
さらに深刻な状況を生んだ背景には、アメリカではこれまで多くの一般人が、SUV(スポーツ用多目的車)や小型トラックを運転してきたという点です。アメリカの自動車会社が製造してきた車を考えてみてください。クライスラー社が製造している75パーセントが大型車ですし、GMの場合も、全体の3分の2が大型車です。それらを利用している人にとって、ガソリンの値上がりは生活を直撃するものですし、さらに今後はそのような大型車を買いたいと思う人は、富裕層でない限り、いなくなっていくでしょう。近いうちに大型車の中には、生産がストップされるものも出てくるはずです。たとえば、GMのCHEVY Surburban(シェビー・サバーバン)という車は、ガソリンを満タンにするのに150ドル(約16000円)もかかってしまいます。しかも、燃費は日本の2000ccクラスの乗用車の半分ほど。今後、アメリカ車離れが加速することは間違いありません。
大型車中心の生産ラインという足かせ
原油価格の高騰に関してインタビューに答える、石油メジャーの一社・シェブロンのピーター・ロバートソン副会長。(「PBS NewsHour」より)
アメリカの自動車会社は小型車製造にもっと力を入れていくことになるでしょうが、そのシフトが遅すぎたという批判は当然あります。しかも、大型車を製造してきた生産ラインから、すぐに小型車中心にシフトすることは容易なことではありません。現実的には、メキシコや南米にある工場で、すでにある小型車の生産ラインで増産を行うか、アジアや南アフリカといった、物価や人件費が安い地域に新たに工場を増やすことが経営的には賢明な判断でしょう。しかし、それは雇用を海外に持っていくことを意味するため、全米自動車労働組合を憤慨させることになるでしょう。ですから、いずれの選択も大変難しいものがあります。
アメリカの大手自動車会社フォードやGM、クライスラーの苦境は続き、08年は利益を出すことはおそらくできないと思います。3社は、今後も従業員を解雇に迫られます。先日も、フォードが人件費を15パーセントカットするため、大幅な人員削減をしなくてはいけないと発表したばかりです。
その一方、日本のメーカーの小型車やハイブリッド車の売れ行きは好調です。ガソリン価格が高騰していることから、ホンダのシビックなどは、ここ数年、もっとも人気がある車のひとつとなっています。トヨタのカローラやプリウスも、とても人気があります。トヨタやホンダは今後も利益を伸ばしていくことができるでしょう。
また、ガソリン価格の高騰により、レンタカー会社にも大きな変化が表れています。ここでも小型車を求める客が急増しているため、レンタカー会社は大型車や中型者より小型車の台数を急きょ増やしていますが、結果的に小型車の利用料金も高くなり、市民生活を圧迫しているのです。
公共交通機関の利用者が過去最高に
ヨーロッパなどと比較して、アメリカは国土が大きいので、なかなか環境問題に対する意識が高くならないなどと批判されてきました。しかし、ガソリン価格の高騰により、アメリカでの環境に対する関心は、いやがおうにも今までより高まっています。ガソリンの無駄遣いをやめることを環境面だけではなく、経済面でも迫られるようになりました。もちろん地球温暖化の問題が、教育機関やメディアでよく論じられるようになったということも影響しています。
この意識の変化は、企業レベルでも市民レベルでも起きていることで、特に政府や企業に対して、市民が厳しい目を向ける空気が出来上がってきました。今年の大統領選挙でも、「環境に優しい仕事」の創出がひとつのテーマとなっています。単に雇用を生み出すだけではなく、リサイクルや代替エネルギー関連といった仕事が今後、増えてくると思われます。
市民レベルでは、車による通勤・通学をやめ、公共交通機関を利用する人が非常に増えました。07年は公共交通機関の利用者数が、のべ103億人で過去最高に達したという発表があったばかりです。
ヨーロッパ各国には劣るかもしれませんが、私個人の意見としては、日本人やアメリカ人の環境問題に対する意識は、世界的にみると比較的高いと思います。工場の排水や排煙に関する日米の規制も、中国におけるそれとは大きく異なるでしょう。アメリカの場合、さまざまな環境問題や異常気象の影響が、常に東西南北に大きく広がる国土のどこかしらには及んでいるので、国民の問題意識は日に日に高まっているような状況です。その結果、アメリカ経済を支えてきた自動車産業は、さらに大きな変革を急速に求められています。アメリカの市場動向は、この変化を抜きにして語られません。これは、私が自動車業界を専門とするアナリストだから言うわけではなく、多くの専門家の一致した見方です。
ちなみに私は以前ボストンに住んでいたときは車を所有していましたが、ニューヨークに引っ越すと同時に手放しました。地下鉄でどこにでも行けるニューヨークに住んでいる限り、車は必要ありませんし、私の住んでいるマンションでは月々の駐車料金だけで500ドル(およそ54000円)もかかります。車が必要なときはいつもレンタカーを借りています。もちろん燃費のよいコンパクトな車をね。
(構成/神林毅彦)
おまけコラム
ウォールストリートの強さと冷徹さを物語る「解雇劇」
サブプライムローン問題に端を発した金融危機により、世界中の銀行は大きな損失を被った。ニューヨークタイムスは、「正確な数は把握不可能だが、昨年の夏以来、およそ65000人が世界中の銀行で解雇されたようだ」と報じている。
もちろん、アメリカ企業による突然の解雇は今に始まったことではない。特にニューヨークの金融業界では、まったく珍しいことではない。「ブラック・マンデー」と呼ばれた1987年の株価大暴落のときなどは、銀行や証券会社は大規模な解雇を一気に行ったとされる。今回の金融危機では、シティグループが全従業員の5パーセントに当たる17000人を解雇しなくてはならないと発表している。
ウォールストリートに吹き荒れる「解雇劇」を報じるインターネット版「ニューヨークタイムス」(5月16日付)
しかし、今までの大量解雇と異なる点は、今回は数千人規模の解雇が秘かに行われている点だとニューヨークタイムスは報じている。昨年冬に高額なボーナスが支払われたことで注目されたゴールドマン・サックスでも、さらなる利益率向上のために今年初頭から業績強化のため全従業員の8パーセントに当たる2000人近くを、メリルリンチは4000人ほどをすでに解雇している。しかも、多くの銀行や証券会社は、できるだけ他の従業員に知られないように首切りを行っているという。解雇される側も、青天の霹靂で通達されることが多いようなのだ。
JPモルガンの元従業員ジョアン・ケネディは手術のため、会社を休んでいる間に上司から電話がかかってきて、「あなたは解雇された」と言われたとニューヨークタイムスにコメントしている。彼女はそのまま会社に戻ることなく、会社のデスクに置いてきた自身の持ち物を自宅に送ってもらったという。
こうした解雇に対して、企業側の言い分は、「業績の悪い社員を合法的にリストラしているだけだ」ということになるようだ。アメリカが世界の金融の中心地であり続けることと、このシビアさは無関係ではないだろう。
2008/06/17UP
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