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2008.05.17
自他共に認める、世界経済の中心国アメリカ。その中でも、ニューヨークマンハッタン島に位置する「ウォールストリート」は、全世界のマーケット情報や人材が集まる金融の中心だ。そんな地において、第一線で活躍するアナリストたちが、日本からは見えにくいアメリカの実像、そしてアメリカから見た世界の微動・激動をレポートする。
今月のアナリスト
マーク・パド (Marc Pado)
1959年生まれ。カリフォルニア州立大学サンタバーバラ校卒業。ニューヨークに本部を置き、世界中に機関投資家の顧客をもつ証券会社カンター・フィッツジェラルド株式会社の、主席アメリカ市場戦略家。日常的にCNN、ロイター、ブルームバーグなどの大手メディアにコメントを求められる、米国では有数の著名なアナリストの一人。
こんにちは。カンター・フィッツジェラルドのマーク・パドです。前回私が登場した際は、アメリカ市場がそれぞれの大統領候補をどのように見ているかについて話しました。今回は、アメリカ経済について比較的楽観視している私が、いつアメリカ経済が危機的状況を抜け出るのかについてお話したいと思います。
サブプライムローン問題や原油高騰でも顕著なように、米国経済は長期にわたって危機的状況にあると言われています。それに対してFRB(米連邦準備制度理事会)は、金融危機による損失を緩和しようと適切な対応を取ってきていると思います。彼らはただ単に公定歩合を引き下げているだけでなく、資金の流動性を高めようとさまざまな手を打ってきました。結果、アメリカ市場は、海外から多額の資金が流入し続けています。
今年3月、ポールソン財務長官はサブプライムローン問題に端を発した金融危機を受け、投資銀行の監視を強化することを発表した。(「PBS News Hour」より)
サブプライムローン問題の本質は、そもそも家を購入すべきでなかった人々、融資を受けにくい人々に、十分な検証もせずに多額の融資を行ってきてしまったことです。結果的に、この実態を無視した融資がたたり、多大な損害を金融業界にもたらしました。しかし、今後も資金流動性を高め、損失を受けた銀行や証券会社などが営業を続けていくための十分な資金を得ていくのに適切な対応を取っていきさえすれば、彼らの現時点での損害の大きさは問題になりません。決して、経営破綻するようなものではないし、今後もサブプライムローン問題が尾を引くこともあるでしょうが、その損失は限られたものだと思います。実体的なアメリカ経済の弱体化を意味するものではないのです。
今年1月、バーナンキ連邦準備制度理事会(FRB)議長は政府の景気刺激策を評価した。(「PBS News Hour」より)/p>
もちろん、それで金融危機が終わったというわけではありません。先日、FRBのバーナンキ議長も、金融市場について「現時点では、まだ決して正常といえる状況ではない」と述べ、金融危機再燃に警戒感を示しました。私が強調したいことは、すでに金融危機は山を越えて、中間点を過ぎているのではないかということ。後ろ向きになる必要はないと思います。
ガソリン価格上昇は、景気減退の大きな要因
大きな視野でアメリカ経済を見た場合、アメリカはリセッション(景気後退)を避けることができるでしょう。経済状態の悪化による影響を受けた人や企業がゼロだと言っているわけではありません。彼らにばかりメディアのスポットが当たる一方で、業績を著しく伸ばしている企業も多数あるということです。GDPとは、そうした双方を含めて算出されるものです。結果的に、多くのエコノミストが主張しているほど、アメリカの経済状態は本質的には悪くないと見ています。たとえば、輸出に目を向けると、6年間もドル安が続いていることを受けて、アメリカより経済状態が良い国に対する輸出分野は伸び続けています。情報技術産業など、しっかり成長している分野もあります。
そんな中で、ガソリン価格の引き上げは、日常生活に車が不可欠なアメリカ国民にとって大きな問題だと言われています。ガソリン価格の引き上げが、国民の消費行動にもたらす影響こそ、米国経済にとっては看過できないことなのです。原油価格は投機家によってほとんどコントロールされており、彼らは、ベネズエラやナイジェリア、イラン、イラクといった原油産出国による供給停止や供給削減を注視しているわけです。過去にも産油国のよる供給停止はありましたが、それらは長くても1週間から2週間でした。しかし最近は、供給停止は3〜6カ月は続いてしまうことが懸念されています。この供給に関する不透明さが、原油高騰を導いているのです。さらに、そうした状態が長期にわたり、ガソリン価格がここ1年以上高値が続いていることから、多くの消費者はすでにガソリンの消費を控えるようになっています。車が中心の彼らの消費活動自体が鈍化することは、市場にとっては最も大きい不安材料といえます。
ただし、楽観論者である私は、6月頃には景気が上向いてくるのではないかと思っています。アメリカ国民は間もなく、景気刺激策の一環である、戻し減税として送付される小切手を受け取ります。これが、停滞していた消費意欲を高めることは間違いありません。どんな手段にせよ、低迷していた消費が伸びれば、少し時間はかかるでしょうが、アメリカ経済は再び軌道に乗るでしょう。FRBによる公定歩合の引き下げや今回の景気刺激策による効果が見られるのには、半年くらいかかります。つまり、9月から来年にかけて、本格的に景気が上向きになっていくのではないかと私は考えています。
「ドル安」路線からの政策転換は重要
ところで、今年は日本でG8サミットが開催されますね。7月に行われる北海道洞爺湖サミットでは、地球温暖化問題のほかに、アメリカの経済問題も各国首脳の間で議論されるのではないかと言われています。この問題を議論するにあたっては、長期にわたるドルの下落対策をどう打つのかが争点になってくるでしょう。先日、ヘンリー・ポールソン財務長官は、「強いドルは、米国の国益になる」という考えを支持しました。これは現政権による政策の転換だと私は見ています。今後、政権内部の人間による、このような発言を耳にすることが多くなると思います。
彼らがいまさら何と言おうと、現政権はドル安を望んでいました。そして、彼らの思い通りになりました。輸出は大きく伸ばすことができたし、海外からの資金流入も増しました。しかし、その代償が原油高騰です。それにより、国内の消費は減退する一方で、海外の資金頼みという発展途上国的な状況を市場に生んでいます。さすがに政府は、そうした状況をこれ以上は良しとせず、ドルの下落に歯止めをかけたいようです。もちろん、急激にドルを強くすることは望みません。せっかく伸びている輸出にブレーキをかけたくないからです。
まずは、ドルが安定することが重要です。すぐに買われたり、売られたりするのではなく、通貨が安定しているというのは、その国の経済自体が安定感を持っていることを意味します。つまり、ドル相場は、国際社会がアメリカ経済をどのように見ているかを示しているということを覚えておかなくてはいけません。今後、本当にドルが安定できるかどうかが、アメリカ経済の減速が緩和したか否かを判断するひとつの試金石といえるのです。
(構成/神林毅彦)
おまけコラム
ボーイングvs.エアバス 軍需産業市場に異変あり!
世界一の規模を誇るアメリカ軍需産業市場に起こった異変に市場関係者が注目している。
ボーイング社は、「空飛ぶ要塞」との愛称で知られるB-17爆撃機を7000機近くも製造した。同爆撃機は、第二次世界大戦の米国の勝利に不可欠であったとまで言われている。また、同社はドワイト・アイゼンハワー大統領(1953-1961)の時代から空中給油機の製造を始め、数百機を米国防省に納めてきた。最近では、同社はミサイル防衛の分野において中心的な役割を担っているものの、軍用機の受注で精彩を欠いている。今年2月末にその象徴的な出来事が起きた。4兆円とも言われる国防省発注の次期空中給油機商戦に敗れたのだ。受注したのは、ノースロップ・グラマン社とその提携先であるエアバス、その親会社である欧州軍需産業大手EADS社である。
ボーシングに競り勝ち、米国防省の受注を獲得したノースロップ・グラマン社の「KC-45 空中給油機」
「ボーイング社は変わってしまいました」と航空宇宙・防衛産業を専門のリーマンブラザーズのアナリストであるジョー・キャンベルは米紙「シアトル・タイムズ」にコメントしている。ボーイング社はかつて米国防衛において名を馳せていた分野でさえも、その存在感が薄くなってしまっていると言うのだ。
その一方、今回の出来事は、航空機の受注数ではすでにボーイングに勝っていたエアバスが、アメリカ軍需産業市場でも大きな足掛かりを得たことを意味し、また、エアバスのような欧州を始めとした外国企業が同市場で競い合うことが可能であることを証明した。フランスのナティクシス証券のアナリストであるオリビア・ブロシェットは、アメリカのディフェンス・ニュースに次のようにコメントしている。
「この受注はEADSにとって本当によいニュースです。今まで基本的にユーロコプター(同社製のヘリコプター)だけに限られていたアメリカ市場への参入が拡大できるのですから」
ボーイング社は、4月29日付「ワシントン・ポスト」の1ページを使って、米国防省の機種選定に異議を唱える広告を出した。対して、ノースロップ・グラマン社は3月に「勝利宣言」の広告を同紙に出している。このように、アメリカでは、受注決定後も双方の会社の工場がある州選出の国会議員も巻き込んで、激しい論争が続いている。
2008/05/17UP
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