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2008.03.17
自他共に認める、世界経済の中心国アメリカ。その中でも、ニューヨークマンハッタン島に位置する「ウォールストリート」は、全世界のマーケット情報や人材が集まる金融の中心だ。そんな地において、第一線で活躍するアナリストたちが、日本からは見えにくいアメリカの実像、そしてアメリカから見た世界の微動・激動をレポートする。
今月のアナリスト
リチャード・ドハティー (Richard Doherty)
ニューヨーク州シーフォードにあるコンサルティング会社エンビジョニアリング・グループの幹部であり、主席アナリストを務める。米国IT市場の動向に詳しく、数多くのメディアにレポートやコメントなどは発表している。
こんにちは、エンビジョニアリングのリチャード・ドハティーと申します。今回私は、昨年発売されて以降、アメリカ市場で人気を博し、現在、世界中で注目されているアップル社のiPhoneに関してお話をしたいと思います。
iPhoneは、昨年6月、アメリカ国内で発売開始以降の7カ月間で、300万台以上の販売台数を記録しています。短期間で、これほどの売り上げを記録した家電は、今までにはないでしょう。それゆえ各国の市場から、iPhoneの動向は注目の的となっています。
iPhoneはすでにイギリス、ドイツ、フランスなどでの販売が始まっていますが、3月初め、米アップル社COOであるティム・クックは、「2008年内には、アジア市場に進出する」と明言しました。ここで具体的に挙げた国名は、中国とインドだけでしたが、日本で普及している3G(第三世代携帯電話)の通信規格に対応したiPhoneも年内には登場すると、アップル社と独占契約をしている通信事業者AT&TのCEOであるランダル・スティーブンソンは語っています。3G対応機種が登場すれば、日本や欧州への普及に加速がつくでしょう。
欧米よりも、かなり遅れて発売される日本でiPhoneは、他のアップル製品同様に成功を収めることはできるのか?
iPodやMacなどアップル社の商品が、日本の消費者の間では大変な人気があることは、我々アナリストの間でも知られています。そのため、iPhoneの日本発売についての動向は、アップル社の業績や家電・通信市場を分析する上で無視できません。
今のところ、予想以上にアップル社と日本の携帯電話事業者各社との交渉が難航しているようですね。ドコモ、au、ソフトバンクの3社は、各社高い実力と戦略を持っていますから、交渉も簡単には進まないでしょう。
私は、昨年10月2日〜6日に幕張メッセで行われた映像・情報・通信の国際展示会「CEATEC JAPAN 2007」に参加しました。その会場で、何十人という日本の会社の社長や取締役の方々が、私が持っていたiPhoneの実機をわざわざ見にきました。その中には、携帯電話業界から撤退した会社の社長もいました。そして、意外だったのは、彼らは、iPhoneでどのようにインターネットにアクセスできるのかという点に強い関心を持っていた点です。日本では、iPhoneは、通話端末であると同時に、ネット端末としての期待が非常に高いことがうかがえました。そういった日本市場の特徴を、私は「ウォール・ストリート・ジャーナル」にレポートしたほどです。
日本の携帯電話は、技術的に非常に高いレベルで、精巧につくられているというのが私の印象です。多くの機能が、小さな端末によく収まっています。そうした端末とiPhoneとの大きな違いは、インターネットの操作性ではないでしょうか。iPhoneは、アメリカのどの携帯電話よりも大きなスクリーンを持ち、タッチスクリーン機能を有しています。こうした斬新なインタフェースが、ネットを重要視する日本のユーザーにどう受け入れられるのか? この点が、日本での成否にかかわってくると思います。
日本版iPhoneは、さらに多機能に!?
さらに、アップル社にとって、日本市場を特別視する理由があります。それは、他国に比べて、日本国内でのアップルのブランド力がとても高いということ。そのブランドイメージを維持するために、iPhoneも日本で高い顧客満足度を得られる商品にしなければなりません。彼らは話題性だけで売れればいいとは考えておらず、iPodやMacと同じように、日本の消費者にiPhoneを満足してもらいたい、楽しんでもらいたいと思っているのです。
そのためにも、アップル社は、パートナーとなる携帯電話事業者選びに慎重を期しています。それらの事業者が持つインフラで、顧客が確実にiPhoneの魅力となるべきサービスやデータバンクを利用できるかどうかを見極めているのです。特に、iPhoneが提供しているサービスは、アメリカやドイツでは、メールやウェブブラウジング、音楽ダウンロード、googleマップなど、ごくシンプルなものであり、日本でも販売開始当初は同程度のものにとどまると見られています。しかし、日本の携帯電話は、GPSやワンセグなど多様な機能を持っており、そんな市場でユーザーから高い満足度を得るには、さらに多様な機能を提供することが求められます。それでも、iPhoneには、実際は20ものプランを提供することができるポテンシャルがあるといわれ、現在試作機がつくられているとも噂される、日本版のiPhoneが今度どのように発展していくのか注目です。
また、最近のビジネスニュースが報じているように、収益をいかに分配するかという点で、アップル社と各携帯電話事業者との交渉が長引いているようです。アップル社CEOであるスティーブ・ジョブズは、タフ・ネゴシエーターとして、アメリカでもよく知られた存在ですから、日本の企業も苦労しているのかもしれませんね。
日本での成功のカギは「おしゃれさ」
ところで、最近、「ロックが解除された」iPhoneが、アメリカ国外において非正規ルートで大量に流通されていることを、「ビジネスウィーク」などの各メディアが大きく報じています。ロックを解除すると、たとえば、アメリカではAT&T以外の携帯電話事業者でも使用できたり、中国の携帯電話事業者でも使用できたりします。iPhoneが正式に販売されているアメリカ、イギリス、フランス、ドイツなどの国以外で出回っている半数以上のiPhoneは、ロックが解除されたものだといわれています。ちなみに、中国に出回るiPhoneの10台に9台は、ロックが解除されたものだそうです。
もちろん、そのロックを解除したのはアップル社ではなく、それぞれの国の誰かが独自に行ったものです。これにより、アップル社が金銭的に損をするということはありません。逆にいえば、ロックが解除されれば、正規の携帯電話事業者のユーザー以外も利用できるので、iPhone市場はさらに拡大し、アップル社の利益に貢献するという皮肉な状況を生んでいます。ちなみに、日本では通信規格自体が異なるため、ロックを解除しただけでは、iPhoneは使えるようになりません。あしからず。
日本でのブランドイメージを重要視するアップル社の戦略は、アップルストアの内外装や品揃えにも見てとれる。
それにしても、私はここ数年日本を何度か訪れて、皆さんが使っている携帯電話を見てきましたが、日本の端末は機能だけではく、デザイン性にもすごく優れていますね。
それと、日本のアップルストアが、他国のそれと比較して、おしゃれにできているということも感じました。また、中国、韓国、アメリカ、ドイツなどのアップルストアでは見ることができない商品を販売しているということをご存知ですか? たとえば、iPod用のおしゃれなアクセサリーなどですね。日本人は、アップル社の製品で生活の一部を彩りたいという気持ちが強いようです。iPhoneも、そのためのアイテムにならなければならないわけです。
アップル社はとっくに気づいているでしょうが、やはり同社に限らず、日本市場で家電などを展開するに当たって注意を払うべき点は、日本の消費者はスタイルや外見をとても気にするということでしょう。
(構成/神林毅彦)
おまけコラム ウォールストリートのアナリスト事情(4)
アナリストも侃々諤々! 日本でiPhoneは売れる? 売れない?
iPodとともにiPhoneの成功は、アップル社を、フォーチュン誌による「米国で最も尊敬される企業」の前年の第6位から第1位に押し上げた。
アメリカの景気悪化により、アップル社の株価も下落していくと見られていたが、「スティーブ・ジョブズCEOが08年末までにiPhoneの1000万台売り上げと、アジア市場での販売開始を繰り返し明言したことで、投資家の懸念は払拭された」とパイパー・ジェフリー社のアナリストであるジーン・マンスター氏は言う。同氏は、アップル社の株購入を勧めているアナリストのひとりだ。
しかし、アジア市場で最も注目される日本市場においては、その見方がアナリストの間で二分している。「ナイトリッダー・トリビューンニュース」は、「iPhoneは、日本ではそんなに格好よくない」と、日本におけるiPhoneの成功に疑問を持つアナリストの声を紹介している。日本の携帯電話に十分満足している消費者が、iPhoneに飛びつくとは考えにくいというのだ。「ヨーロッパでのiPhoneの売り上げは、少しがっかりさせられるものだった」というフォレスター・リサーチ社のチャールズ・ゴルビン氏は、逆に日本市場での販売に関しては楽観的だ。アップル社は最先端を行く企業で、しかもその製品は、ユーザーフレンドリーでファッショナブルだというイメージが確立されている日本は、「iPhoneにとって、とても魅力的な市場」だと同氏は強調している。インスタット社のアナリストであるデービッド・チェンバレン氏も、アメリカ国外でiPhoneが注目されているのは疑う余地もなく、彼が日本で会った人々はiPhoneを購入できることにかなり興奮していたと話している。しかし、昨年末のビジネスウィーク誌の「日本は、iPhoneが必要か?」という記事のなかで、UBS証券シニアアナリストである乾牧夫氏はiPhoneの限られた機能と高い価格(イギリスでは、約5万5000円で販売)のため多くの消費者はiPhoneを購入する気にはならないだろうとコメントしている。さて、そのアナリストの予想が当たるのか?
2008/03/17UP
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