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2008.02.17
自他共に認める、世界経済の中心国アメリカ。その中でも、ニューヨークマンハッタン島に位置する「ウォールストリート」は、全世界のマーケット情報や人材が集まる金融の中心だ。そんな地において、第一線で活躍するアナリストたちが、日本からは見えにくいアメリカの実像、そしてアメリカから見た世界の微動・激動をレポートする。
今月のアナリスト
マーク・パド (Marc Pado)
1959年生まれ。カリフォルニア州立大学サンタバーバラ校卒業。ニューヨークに本部を置き、世界中に機関投資家の顧客をもつ証券会社カンター・フィッツジェラルド株式会社の、主席アメリカ市場戦略家。日常的にCNN、ロイター、ブルームバーグなどの大手メディアにコメントを求められる、米国では有数の著名なアナリストの一人。
はじめまして。カンター・フィッツジェラルドのマーク・パドといいます。今回は私が、日本でも連日報道されているという、アメリカ大統領選挙の行方と市場の関係について、特にウォール・ストリートが主要な大統領候補をどのように見ているかという点に関してお話ししたいと思います。
まず、共和党の大統領候補になることはほぼ間違いないであろうジョン・マケイン上院議員の経済政策と、民主党のヒラリー・クリントン上院議員、バラック・オバマ上院議員という2人の候補の政策には、大きな差があります。
市場に与える影響が最も異なってくるのは、民主党の2人のどちらが大統領になっても、共和党ブッシュ政権の減税政策を廃止し、増税を行って、政府主導の政策を次々に打ち出してくるという点です。特に、クリントン候補は、国民皆保険制度の導入など、医療制度改革を強化していくことを公言しています。オバマ候補は、増税はほどほどに、まずは医療制度の経費削減策を強化すべきと主張していますが、それ以外の経済政策については、クリントン候補とはそれほど差がありません。
ウォール・ストリートの市場関係者の間では、増税を行い、「大きな政府」をつくっていこうという民主党の動きには、以前から否定的です。企業と富裕層に対する課税を増やされては、市場に流れる資金は減り、経済は後退するという単純な論理です。よって、一般的にいえば、市場関係者は、規制緩和と減税を支持する、いわゆる新自由主義的経済改革を推し進める共和党を好みます。
しかし、共和党政権だからといって、絶対に増税行わないかといえば、この点については、現時点でも市場関係者の見方は分かれます。新政権が、ブッシュ時代のように、引き続き大企業を積極的にサポートし、最も裕福な層に対する減税を行っていくのか、それとも増税を行い、恵まれない人々を助けるための政策にもっとお金をつぎ込むか、この2つの大きな選択のうち、どちらかを取るのかは不明なのです。
共和党の大統領候補になるであろうマケイン氏は、党内でも“一匹狼”的なところがあり、しかもブッシュ大統領の減税政策に2度(01年と03年)反対しているので、市場関係者は彼に対して慎重な態度を取らざるを得ませんでした。一方で、最近では保守派の支持を取り付けるために、減税政策に対して支持を表明したり、自分が大統領になったあかつきには、増税を求めるいかなる法案にも拒否権を行使すると主張するようになりました。彼の真意を読み切れないところはあるのですが、ひとつ言えるのは、ベトナム帰還兵でタカ派であるマケイン候補が大統領になると、国防予算の増加が見込まれるため、軍事産業関連の企業の受注増が期待できるものと思われます。
ウォールストリートでは「マケイン」が圧倒的人気
また、アメリカ経済が減速している今日の状態から脱出することを優先課題にするべきだという点では、3人の候補とも大きな違いはありません。先日、連邦議会で決議された1500億ドル(約15兆円)を投入する景気刺激策を3人とも支持している点にも、それははっきりと表れています。
それでも、ウォール・ストリートにとっての「歓迎すべき候補者」は、前述の通り、マケイン氏だと圧倒的な多数が考えています。ちなみに、経済通であるミット・ロムニー前マサチューセッツ州知事は、マケイン候補以上に市場関係者に支持されていましたが、スーパーチューズデー後に、残念ながら予備選から撤退してしまいました。
マケイン氏の次にウォール・ストリートで支持されている候補は、同氏とはかなり差が開いてオバマ氏だと思います。ただし、これは、クリントン氏との消去法によって、オバマ氏が残るという程度。実際には、ウォール・ストリートが嫌う、株式譲渡益課税と配当税を上げることを支持しているオバマ氏には、慎重にならざるを得ないといったところでしょう。そして、最後にくるのが、企業や富裕層から金を搾り取ろうとするクリントン氏です。もちろん、これは市場の論理を優先した場合の選択であって、おのおのの政策の善し悪しを多角的に分析した結果とは異なるものであることはご理解ください。
ウォール・ストリートにもっとも好かれている大統領候補、共和党のマケイン氏。
おなじみ民主党の2人の候補は、「大きな政府」路線ゆえ、評判はイマイチ。
保護貿易主義といっても、中国は無視できない
どの候補者が当選するかは置いておいて、「大統領選挙の年だから、景気が上向く」という楽観的な見方をする市場関係者もいます。確かに、大統領選挙がある年は、株価の上昇率も比較的高く、景気が良くなるという傾向がありました。しかし、景気を良くしているのは、大統領選挙ではありません。任期切れを目前にした大統領は、自国の経済状態が悪い中、任期を終えたくないものです。そのため、成果が出るか否かは次期政権に任せ、景気回復の期待感を煽るような経済政策を打ち出してくるからです。しかし、今年に関していえば、現在の政府、民主党と共和党の両党、そして、どの大統領候補も景気低迷に対して、最善策を打ち出せているとは思えません。
一方で、最近のアメリカのメディアは、国内経済が「景気後退」に近い状態になっていて、万が一、実際にそうなった場合、誰に有利に働くのか、という議論をしています。しかし、私は、現時点では景気後退に近いなどとは思いません。景気後退とは、2四半期以上連続でGDP(国内総生産)が減少することです。現在のアメリカでは、そこまでの危険はありません。メディアは、話を誇張しているように思えます。サブプライムローンに起因したマイナスの部分ばかりに目をやり、他のプラスの面をすべて無視して議論しているようです。特にIT業界は海外では好調だし、鉱業関連の業績も伸びています。実態としては、アメリカ経済は堅調なのです。
誇張といえば、内政重視の民主党政権が誕生した場合、「保護貿易主義」が台頭して、巨額な対米貿易黒字を持つ中国に対しての批判が高まるのではないか、同時に日本もその対象になるのでは、という声があります。しかし、私に言わせれば、「保護貿易主義」という言葉も誇張にすぎません。さも、中国や日本との貿易赤字を解消するための強行策を売って出そうな響きですが、中国との貿易を終わらせたいと思っている者は誰もいません。民主党は、中国に対して、人民元を切り上げるべきだと声高に主張していくでしょうが、それでも、中国との貿易関係はこれまで以上に強くなっていきます。アメリカ経済にとって、もはや中国はなくてはならない存在です。一昔前までは、その存在は日本でしたが、市場関係者が目を向けるアジアの国といえば、圧倒的に中国になりました。日本のみなさんにとっては、寂しい話かもしれませんが。
(構成/神林毅彦)
おまけコラム ウォールストリートのアナリスト事情(3)
大統領も社長も、重大決定はパートナーに相談する !?
もしヒラリー・クリントン上院議員が大統領になったとしたら、夫であるビル・クリントン元大統領は国の政策決定にどれほど影響を及ぼすのだろうか? いや、間違いなく口は出すだろう、という見方が一般的だ。そういった面からも、今年のアメリカ大統領選挙では大統領候補の妻、あるいは夫が、以前にも増してメディアで注目されている。
アメリカの大企業にも、同じような注目が集まる。企業の重大事を、妻や夫に相談したなどと自分から認める大企業のトップはほとんどいない。しかし、最近の傾向としては、妻や夫に日常的に助言を求めるトップは増えているようだ。「ウォール・ストリート・ジャーナル」によると、そのような密かなる助言のおかげで、失敗を未然に防ぐことができたと話している企業経営者が大多数だという。彼らの結婚相手が同じような学歴やキャリアを持ち、ある特定の産業に深い理解を示しているという点が、多くの日本企業のトップと異なり、最近のアメリカの特徴ともいえるだろう。特に重要な人事や戦略に関して、経営者はパートナーからの率直な意見に積極的に耳を傾けているという。
大手IT企業・Delphiの会長であるロバート・スティーブ・ミラーは、主に重要な人事の決定に関して、夫人にたびたび助言を求めてきたという。
「妻の助言を常に受け入れるというわけではありません。でも、同じバックグラウンドを持つ妻が私という人間をよく理解してくれているので、彼女の意見を求めているのです。もちろん、私たちの会話は外には漏らしません」とミラー氏は話している。
しかし、会社の重要な決定がベッドルームでなされていることを社員が知ったら、やはり複雑な気持ちになることだろう。
2008/02/17UP
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