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NY発!ウォールストリート・アナリストの目

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 2008年7月 

2008.07.17

特別編 小泉改革後の日本経済を米国ジャーナリストはどう見る?

自他共に認める、世界経済の中心国アメリカ。その中でも、ニューヨークマンハッタン島に位置する「ウォールストリート」は、全世界のマーケット情報や人材が集まる金融の中心だ。そんな地において、第一線で活躍するアナリストたちが、日本からは見えにくいアメリカの実像、そしてアメリカから見た世界の微動・激動をレポートする。最終回である今回は、日本考察には定評がある、ニューヨークのジャーナリストが、オバマ大統領誕生後の日本への影響、そして、小泉改革以降の日本社会の評価をレポートする。

今月のコメンテーター

リチャード・カッツ (Richard Katz)

ニューヨークを拠点とする「オリエンタル・エコノミスト・レポート」の編集長。「週刊東洋経済」のコラムニスト、記者として長年、日本経済と日米関係を報道してきた。著書に『腐りゆく日本というシステム』『不死鳥の日本経済』(共に東洋経済新報社)など。米国外交評議会の日本経済に関する特別委員会のメンバーでもある。

はじめまして、リチャード・カッツです。今回は民主党の大統領候補であるバラク・オバマ上院議員が大統領に就任した場合の日本への影響について、私なりの考えを述べたいと思います。

まず、オバマが大統領になると、保護主義が台頭し、アメリカは自国の産業を守るために、さまざまな制限や規制を日本にかけてくるのではないかという懸念があります。しかし、そう考える日本人は、かなり心配性だと思います。

良くも悪くも、今、アメリカの関心は日本には向いていません。「Japan」というつづりを書ける議員さえ、あまりいないのではないでしょうか(笑)。彼らが問題にしているのは、NAFTA(北米自由貿易協定)と中国のことばかりです。

GM(ゼネラルモーターズ)とフォードの倒産の可能性が叫ばれることがありますが、それをトヨタのせいにする人はいないでしょう。サウジアラビアやイラン、健康保険の問題、GMの経営陣などを責める人はいると思いますが、誰がトヨタのせいにするでしょうか?もしかしたら、GM経営陣やミシガン州選出の国会議員くらいは、トヨタのせいにするかもしれませんがね。

保護主義は、あくまで選挙向けのポーズ!? しかも、オバマ氏の視界には、日本は「重要な国」として、視界に入っていないとも。

 

そもそも、オバマ氏もヒラリー・クリントン上院議員も、保護主義者ではありません。彼らのスタンスは、ビル・クリントン前大統領のそれに近いものがあります。クリントン大統領は、1期目に日米貿易を問題視しましたが、その後、彼もずいぶん勉強をし、その路線を変更しています。もしオバマ氏が大統領に就任したら、クリントン前大統領と同じく、グローバリゼーションや貿易協定の実現などを推し進めるでしょう。

しかし、彼が望むほど、それらを推し進めることはできないと思います。予備選挙中、彼は「NAFTAに関して、カナダやメキシコに対して協定変更を迫る」などと強い表現を使いがちでしたが、何を変えたいのかをよく調べてみると、特に極端に変えようとはしていないのがわかります。

NAFTAによって、投資や雇用がカナダやメキシコに流出し、アメリカ経済は地域によって大きな打撃を受けたと見られていますが、オバマは、そうしたグローバリゼーションは必然的なもの、望ましいものだと見ています。彼は、自由貿易を推進していくと同時に、その影響を受ける労働者を守るための対策を打ち出していくことでしょう。産業を保護するのではなく、労働者を保護しようという考えです。その点を理解しておくべきでしょう。

小泉改革の4つの評価点

ところで話は変わりますが、日本で格差拡大の問題が叫ばれる中、小泉純一郎元首相に対する批判があるようですね。私は、小泉氏は多くのことを成し遂げたと、それなりの評価をしている人間です。

まず、竹中平蔵元金融担当大臣と共に、懸念されていたよりも短い期間で不良債権の問題を解決しました。小泉氏が、その問題を解決するべきだと気がつくのに少し時間がかかりましたが、2人がいなければ、不良債権の問題は長引き、国民により大きな痛みをもたらしたことでしょうし、経済の回復も弱いものとなっていたことでしょう。

2つ目は、反発を覚悟で、改革をしなくてはいけない、という強い意志を明確に示し、政権へのコンセンサスを国民から取り付けました。指導者には、改革をしようという意志がとても大切です。

3つ目は、公共事業を削ったことです。彼の就任以来、おそらく40パーセントぐらい削ったと思います。

4つ目は、首相が党の政策を決めるのだ、と小泉氏は繰り返しました。それに同意できない議員は公認はしない。党から出て行ってもらうと。05年の衆議院選挙では、政治家の地元の後援会や地元への助成金が重要視されず、郵政民営化という政策と改革をテーマに選挙が行われました。たしかに「郵政改革」は誇張されましたが、重要なことは政策を争点にして選挙が闘われたことなのです。「郵政民営化」に反対した議員は党から追い出されました。これは、日本の民主主義にとって、とても大きな変化です。

小泉氏は「改革すべき」場所を誤った

ホワイトハウスのホームページには、いまだ小泉元首相とブッシュ大統領にツーショット写真が掲げられている。2006年6月29日のレポートより。

 

一方、私は小泉氏に対して否定的な見方もしています。指導者の中には、彼らが去った後でも、その影響力を残すことができる人もいます。たとえば、故ロナルド・レーガン大統領の減税政策です。いまや共和党に、減税を約束しないで大統領に立候補する候補者はいません。しかし、この点、小泉氏は異なります。安倍晋三・前首相も福田康夫首相も、小泉氏が推し進めた経済改革には興味を示しませんでした。彼が行ったことは長続きせず、独演会のようなものだったわけです。自民党自体の政策や構造を大きく変えることができなかったのです。自民党は、いまだに党内の有力者によって動かされています。「小泉チルドレン」と呼ばれる議員の多くは再選されることがないでしょう。小泉氏は、日本に持続的な変化をもたらすことができなかったのです。

次に私が問題視したのは、小泉氏の「改革」の定義の点についてです。どのような改革が日本に必要かという点で彼は失敗しました。彼は、ラディカルに新自由主義的(ネオリベラル)な改革を推し進めました。サッチャーやレーガンが推進したような改革です。しかし、日本にとって、この新自由主義的改革は、非常に不適切なものです。イギリスやアメリカに適しているかという議論はあるでしょう。しかし、日本の社会にはまったく不適切です。日本では、イギリスやアメリカとは異なり、これまで社会主義ともいえるような自民党政治がはびこってきたわけです。官僚主義で大企業が保護され、既得権益を守ろうとする勢力が相変わらず力を持っている。そんな中で競争を自由化したところで、新しい風は吹きにくく、国家に保護されてきた一部の勢力の力が低下するくらいの結果しか残せません。

そうしたことが相まって、小泉改革以降、格差が拡大しているのは事実であり、その点で小泉氏を責めている人が少なくありません。しかし、小泉氏が首相になるかなり前から、所得格差の拡大は始まっていました。小泉改革だけに責任を押し付けるのは、問題の本質を見誤る危険性があるのではないでしょうか?

政権交代という緊張感こそ、社会には重要

小泉氏の問題は、すでに始まっていた格差拡大の問題に取り組まなかったことにあります。私は以前から主張していますが、日本はスウェーデンのようなモデルを取り入れるのがよいのではないでしょうか。地方分権を発展させ、規制緩和や市場競争を加速させるなどして経済力を強力にする一方で、そうした流動性の高い社会においてしわ寄せを食いやすい労働者を保護する政策を推進するということです。それにより、順調な経済成長と所得の均等と保障を図るのです。たとえば、次々に生まれるであろう市場や業種に適応できる労働者(解雇された労働者など)を、国が研修によって育てるなどのセーフティネットが求められるでしょう。

しかし、ひとつの政党が支配する国は、これほどの改革を行うことが困難です。官僚組織がとても強力なものである理由は、戦後、ほとんどずっと自民党が政権政党であったことです。その点、小泉政権は例外でしたが、小泉氏が政権を離れると、すぐに元の古い自民党に戻ってしまいました。

「小泉純一郎の最も評価すべき点は、おもしろいことだ。それまで日本の首相はおもしろみに欠けた人物ばかりであった」と記事を書いたのは米国人ジャーナリストのイアン・ブルマ氏。日本人も彼のおもしろさに熱狂した挙げ句……。

 

では、民主党が政権を取ると、大きな変化を期待できるものでしょうか? 答えは、イエスとノーの両方になりそうです。彼らは現状を破壊することはできるでしょう。氷山を破壊することだけでも、前進と見なすことはできます。政治の場における本当の意味での競争、つまり政権争いも、社会のためになります。複数の政党の間で政権が変わる可能性があれば、いずれの党も社会に対してより責任を持つようになるでしょう。一党支配が続くと、政治家は冷淡で無責任になります。それは、福田首相の人格にも表れています。彼はとても冷淡で官僚的です。人々が何を必要としているかということなどは気にもしませんし、一般の人々の暮らしを理解さえもできません。

小泉時代に比べて、今の政治は国民のためになっているのか否か。次の総選挙は、そんな改革の真価を見定めるための重要な選択を、国民は求められているのです。

特別コラム

海外メディアは、洞爺湖サミットをどう報じたのか?

7月7〜9日に、北海道洞爺湖で開かれた主要国首脳会議(サミット)のニュースは、開催前の昨年から、国内で大きく報じられてきた。日本では、あたかもお祭りのような報道ぶりのサミットだったが、海外メディアはこれをどのように報じたのか?

まず、アメリカに関していえば、いまだ「サミット」あるいは「G8」という言葉さえ知らない人が大多数であろう。アメリカのメディアは、「政府の広報機関」と皮肉られる日本のメディアのようにサミットを大々的に報道しない。長年日本に住んでいたアメリカ人ジャーナリスト(現在は在米)は、今回のサミットに関する米国内の報道は「奇妙なくらい、ほとんどなかった」と言う。だが、これは特に驚くことではないようだ。その主な理由は、ジョージ・ブッシュ大統領の任期がもう終わるからだ。米国内外の注目は大統領選に移っている。就任1年目の大統領が出席するサミットであれば、報道も少しは異なったであろう。

洞爺湖サミットはG8リーダーの休日のようなものと国際支援団体オックスファムに皮肉られる(ワシントンポスト紙から)

 

他の国もアメリカと大差はなく、大きく報道されることはほとんどなかった。また、数少ない報道の中身といえば、日本に対して厳しい見方をしたものばかりだ。

サミット開幕直前、イギリスのフィナンシャルタイムズは、「日本は行方不明、姿が見えないサミット主催国」と批判した。過去のサミットでは、イギリスのアフリカ支援やドイツの気候変動への取り組みなど、主催国が得意とする分野があったが、今回の日本にはそれが欠如していると報じている。さらに、「アジアの世紀」とは言われているが、それは中国やインドのことだと手厳しい。

前回の倍以上の異常な警備

サミットの警備が行き過ぎだという声を報道するニューヨーク・タイムズの記事(08年7月9日ウェブ版)

 

今回のサミットは役者不足という指摘もある。福田康夫首相やブッシュ大統領を筆頭に、今回の出席者は支持率が低いリーダーがほとんどで、しょせん何も決まらないだろうと批判的な見方が多い。

フランスの通信社AFPは、今回のサミットを「弱者の集まり」と呼んでいる。イギリスのゴードン・ブラウン首相も支持率は20パーセントほど、フランスのニコラス・サルコジ大統領の支持率も就任時からかなり下がっており、ドイツのアンゲラ・メルケル首相も09年の選挙後に連立内閣を発足するためにどの政党と組むか、その相手探しに多忙だと、AFPは報じている。

ニューヨーク・タイムズは、サミット会場である洞爺湖から19キロ離れている北海道伊達市の厳重な警備に関して報道している。海外では日本人は “neurotic” (過度に神経質)だとよく言われるが、そのイメージがいっそう強くなりそうな記事だ。抗議行動の参加者は、今回の警備を「行き過ぎ」だと口々に批判している。「この警備は行き過ぎだね。サミット会場の門をぶち破ろうなんて誰もしないよ」とサンフランシスコから来た反戦活動家は、同紙にコメントしている。また、抗議行動の規模は小さく、平和的であり、それは、政治に無関心な日本人が多いことと、犯罪が少ない社会の表れだと、この活動家は指摘する。このサミット史上最も厳重な警備には、2億8千万ドル(およそ300億円)が使われていて、前回ドイツで開かれたサミットにおける警備費用の1億3千万ドル(およそ140億円)の倍以上だそうだ。

警備だけにそれほどお金を投じたにもかかわらず、やはり、今回のサミットでは重要な決定はなされなかった。中国の人民日報も、温室ガスの排出量に関して具体的な数字は打ち出されず、また、世界の石油・食糧価格が高騰している問題に対する新たな動きもなく、画期的な成果はなかったと論評している。

福田首相が113歳となる2050年までの目標を誰が守れると言うのだろうか?

(構成/神林毅彦)

英語が話せなくても、ドルは買える <松井証券のNetFx>

2008/07/17UP


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